「ハック」+「られる」という日本語
これを書いている時点では通常に戻ってしまったが、10月から最近まで、ingressアニメのtwitterアカウント名に「ハックられ中」という言葉が使われていた*1。
「ハックられる」という活用を、少なくとも自分は今回初めて聞いた。11月2日の時点のGoogle検索結果でも、ほとんど用例が見当たらない。 見つけたときにはモヤっととした。モヤっとしたけど、どう直せばいいのか、すぐに出てこなかった。
以下はそのモヤっとを晴らすための備忘録。
まず整理から
「ハックられ中」=「ハック(する)」+「られ」+「中」
英語のhackの意味は「[他動]コンピュータに不正侵入する、プログラムを改造する」「[名]ハッカー、ハッキング」。
- 参考:スペースアルク 「hackの意味」
- そこから日本語で「ハックする」「ハッキングする」というサ変動詞が生まれた。
日本語の「られる」は、この場合受動態で「ハックされた」の意味。
- られる(ラレル)とは - コトバンク
[助動][られ|られ|られる|られる|られれ|られろ(られよ)]上一段・下一段・カ変動詞の未然形、サ変動詞の未然形「せ」、使役の助動詞「せる」「させる」の未然形に付く。 1 受け身の意を表す。「乗客が次々と助けられた」「花壇の中にごみを捨てられて困った」
違和感の整理
サ変動詞の受動態に「られる」を使っている
- 前述のコトバンクの続きだけれど、「する」の受動態は「される」が一般的だ。 -「[補説]サ変動詞には、未然形「さ」に「れる」が付き、「される」と用いることが多い。」
- けれど「ハックされ中」に直しても、まだ自然な日本語にはならない。
- 「ハックされる」「~され(られ)中」個別には不自然に感じない。
受動態の進行形を簡単に言えない
- 「ハックられ中」の「中」は進行形。「twitterアカウントが別の人に乗っ取られて勝手なツイートをされている」という意味。
- ハックされた(受け身)
- その状態が続いている(進行形)
- 上記2つを簡単に表す助動詞が日本語に無い。
- being doneを教科書的に訳すれば「されつづけている」となるのだけれど、口語でそんなことは言わない。
- 日本語だと現在形と現在進行形の区別があまりない、という一般的な話。
「hack」「ハックする」の進行形は可能なのか
- 解釈に個人差が出そうだけれど、「ハックした」「ハックされた」というのは、目に見える動きでなく状態を表している、という印象がある。
- 受動態にしない場合「ハックする」と「ハックした」の2状態しかないイメージ。
- 英語のlock(鍵をかける)に似ている。鍵が掛かっているなら単にlockedというだけ。
- locking(鍵をかけている途中である)というと未完であるようにも取れる。
- その他だと 「逃げる」「逃げた」。「逃げている」だと逃げることにはまだ成功していない。
- そのため「ハックしている」という途中状態の表現に違和感がある。
-「ハックする=不正アクセスする」と言い換えたとき「不正アクセスされ続けている」という表現はあまり使わない。同様に「ハックされ続けている」という進行形の表現もあまり使わない。
- ニュースなら「サイバー攻撃を受けている」「攻撃が続いている」 などで表現される。ただしこの進行形は攻撃が成功・完了してないという意味も含んでいるので、「ハックられ中」が言おうとしている進行形とは異なる。
- 「being hacked」の英語表現を検索してみたけれど、進行形の用法は少ない。ぱっと見では、補語の用法や名詞句を作るために使われていることが多い。ただし、これは今後変化するかもしれない。
- 「ハックする」と「ハッキングする」の両方の言い方があるために混乱しているのかもしれない。
- 「ハッキングしている」だった場合…微妙なところ。「メイキングしている」「ビルディングしている」「サンプリングしている」などを考え、さらにその受動態を考えると、自然と不自然の中間にいる*2。
自然に言い直すなら
「ADAにハックられ中」を違和感無い形に言い直すなら、以下が考えられる。
- ADAに乗っ取られ中
- ADAがハッキング中
- ADAにハックされました(進行形をやめて完了表現に)
*1:10月3日頃から一定期間だけ特別仕様だったようだ。開始時と思われるツイート
*2:用法として適切かのほか、カタカナ+サ変動詞を日常あまり使わないので、頻度(慣れ)の問題も考えられる